不治の疾患と言われた歯周疾患

歯周疾患にも長い歴史の中で、医療のイノベーションを経て今日があります。
もちろん、歯周疾患は日本人だけに起こった病気ではなく、
世界のあらゆる地域、民族にまで蔓延していた発症率の高い疾患でした。
紀元前2,500年の中国における最古の医学書『黄帝内径』に、口腔疾患を風邪(炎症)、
牙疳(歯の周囲軟組織疾患)、齲蝕の3つに分類したものが残されています。
また、エジプトでも歯周疾患の症状、動揺歯の固定法が記されたエベルスパピルスも残っており、
長い遍歴が伺えます。

歯周疾患の原因は20世紀中頃まで「原因が良く分からなかった」のです。
そして、症状を改善するために、歯周外科手術が中心の治療が行われていました。
歯肉切除術や、歯茎を切り開いて感染部分を取り除く歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)が多く用いられてきました。
しかし、原因が分からない“対処療法”のため再発率は高く、
歯周疾患の治療は困難で、「不治の疾患」と誤解されていました。

1960年代に入り、歯周疾患の原因がプラーク(歯垢)中の細菌であることが証明されて、
どうして歯周疾患になってしまうのかが分かりました。そして、歯周疾患の予防法や治療法が体系化され、歯周病治療の基盤が確立されました。歯周治療を通して、歯周疾患の原因であるプラークや外傷性因子を除去することで、歯周疾患の多くを治癒することが可能になりました。
歯周疾患は「予防できる」「治療できる」疾患となりました。

プラークを除去することで歯肉の炎症は改善されます。
そのため、(歯周)ポケットも浅くなるので、歯周外科手術に至る前に症状を改善することができます。これによって、ポケット除去から、ポケットの深さを浅くする歯周治療に変貌していきました。
歯肉縁下のプラークを歯科衛生士が確実に除去できる、4ミリ程度にまで改善することが目的となってきました。

歯周検査で「歯周ポケット4ミリ未満」、「歯周ポケット4ミリ~6ミリ」「歯周ポケット6ミリ以上」と
チェックを受けブラッシング指導や歯石除去を行う療法に通じています。
さらに、歯周治療後の評価で歯肉に炎症がなければ治癒とみなす、ポケットメインテナンスという概念に移ってきています。そして、歯周治療は、低侵襲治療が推奨され、プラークコントロール、スケーリング・ルートプレーニングといった非外科的歯周治療によっても効果があることが証明されています。そのため、プラークコントロールしやすい歯周環境にするため、審美性の確立が手段として行われています。

また、歯周疾患は単に口腔内の感染症だけではなく、
歯周病理細菌が、遠隔臓器に影響を及ぼして全身疾患の原因となりえる慢性炎症として理解されています。歯周治療を適切に行うことで、全身疾患の発症予防、改善できる可能性も証明され認知されるようになってきています。